2007年3月にコダックから発売されたレンズ付きフィルムです.メーカーのサイトには,「コンパクトカメラに使用している高性能非球面レンズを採用」,「2枚のレンズの組み合わせによって光のズレが補正され、シャープな画像を得ることができます」と謳われています.さらに,大きさも,97mm x 57mm x 36mmと,極小サイズです。また,重さも105g程度なので,内蔵電池等を外したり,軽量のパトローネを使えば100g以下まで減量できるかもしれません.こうなると,試してみるしかありません.
このカメラの存在を知ったのは.2008年頃のことでした.その時は発売からすでにかなり時間が経っていたので,急いで探し回りました.幸い,一部のカメラ屋さんの店頭に何台か残っていました.以前にWai Wai ワイドの入手で苦労したこともあり,すぐに3台購入しました.その後,このカメラは,あっという間に市場から姿を消してしまいました.
レンズは,2群2枚構成のプラスチック非球面レンズで,エクタナーレンズ(Ektanar Lens)というブランド名がつけられています(レンズ横のEktanarの文字を見ると,「撮りきっりMini」シリーズのレンズにも,たとえば,「サクラー,Sakurar」のような,カッコいいブランド名をつけておけばよかったのに、と思います).このエクタナーレンズは,焦点距離が30mm,F値が10の固定焦点で,最短撮影距離は0.75mとなっています.最短距離をどうやってここまで短くできたのかはわかりません.被写界深度の計算式から推定すると,焦点距離を1.5-2m程度として,許容錯乱円の値を通常の1.5倍程度にとれば,これくらいの被写界深度を稼ぐことは可能かもしれません.実際に撮影してみると,確かにシャープな写りで,コンパクトカメラ用のレンズ,という謳い文句もあながち大袈裟ではないようです.
このカメラのもう一つの特徴は,独特のデザインにあります.レンズ周辺部のせり出し部分が中心からずれていたり,フラッシュが少し出っ張っていて,それらが何ともかわいらしい雰囲気を醸し出しています.また,本体色がグレーでなので,心なしか軽めに見えます.落ち着いたスタイルが好みなら、スプレーラッカーで黒く塗ってもよいでしょう.このクールなカメラにお気に入りのモノクロフィルムを入れて鞄の中に放り込んでおけば,作品作りのことがあれこれ頭に浮かんで,仕事のことなどはすっかり忘れそうです.
Kodak SnapKids Beauty, 'Limited'
重量 | 105g(改造後77g) |
大きさ | 97mm x 57mm x 36mm |
レンズ |
エクタナーレンズ(2群2枚構成のプラスチック非球面レンズ)30mm 1:10 |
絞り | F10固定 |
焦点距離 |
撮影距離:0.75m-∞ |
シャッター |
シャッター 速度:1/125(固定) |
ストロボ | 内蔵固定方式 連続充電・自動オフ (フロントパネルにフレネル形状を採用) 撮影可能距離範囲 0.75-5m(ISO800) |
電池 | 単四電池1個 |
フィルム | コダック ULTRAMAX800 フィルム(35 ㎜) |
メーカー | コダック |
発売日 | 2007年3月 |
発売価格 | オープン(800円程度) |
他のレンズ付きフィルムと同様に,このカメラには、フラッシュが内蔵されています。そのため、改造や詰め替えには何百ボルトもの電気に感電する危険が伴います。これほど強い感電は、生命の危険をもたらします。また、フィルムの詰め替えは特許侵害の恐れがあります。ですから、このサイトでは改造や詰め替えをおすすめすることはできません。
実際、このカメラは,近景から遠景までくっきりと写ります.ですから,このままでも,充分にスナップ撮影を楽しむことができます.しかし,無限遠までシャープに写る訳ではありません.自分の場合は無限遠までシャープなパンフォーカスがどうしても欲しいので,絞りを改造することにしました.
方法は,撮りっきりコニカ超Miniの場合と同じです.まず,缶コーヒー等の極薄のアルミ版から切り出した円盤に,直径1.1mm程度の穴をあけた絞り板を用意します.次に,ドライバーで後面のカバーを外します.そして,カメラ前面のカバーを外して電池を取り除き,前方のプラスチックレンズを固定する部品を,手でそっと外します.後は,撮りっきりコニカ超Miniのときと同じように,あらかじめ用意しておいた絞り板を,前方のレンズをのせてある部分に接着剤でそっとはりつけ,その後,全体を組み立て直します。
このカメラの詰め替えには,少し工夫が必要です。まず,ドライバーで後面のカバーを外し,パトローネを取り出します.このパトローネの中のスプールは,一方の端がギザギザにカットされた,特殊な形をしています.そこで,パトローネを栓抜きで分解して,ギザギザカットの特殊なスプールを取り出し,これをワンタッチパトローネに入れて,スナップキッズ専用のパトローネとします.これに,デイロールを使って新品のフィルムを詰めます.専用パトローネの準備ができたら,フィルムカウンターを26枚目あたりに合わせて,ダークバックの中で、パトローネから新品のフィルムを最後まで引き出してスプールに巻きとり、それをカメラにセットし、裏蓋を閉めます.
このレンズの写りを一言で言えば,「落ち着いた描写」と言えるでしょう.CD世代やiPod世代には意味不明の表現かもしれませんが,「輸入版のLPジャケットのような描写」と言っても良いでしょう.当時,国内版LPのジャケットは妙にコントラストがきつく,彩度も強く,はっきりとした印刷のものが多い印象でした.それに比べて,同じLPの輸入版は,コントラストもほどほどで,彩度も低く,落ち着いた印刷であることが多かったのです.このレンズは,なにを撮っても,昔の輸入版のジャケットのように,柔らかく,落ち着いた仕上がりになります.これを見れば,コダックのレンズ付きフィルムのファンがとても多いのも頷けます.
また,2群2枚構成のレンズにより補正されているためか,周辺部まで見事にピントが流れません.そのため,ちょっと目には,レンズ付きフィルムで撮ったとは思えない写りです.こんなことを言うとクラカメファンからお叱りを受けそうですが,あえて言えば,ドイツの超高級クラッシックカメラ用のオールドレンズで撮ったような感じです.このように、刺激的なところがない、柔らかな描写がたまらなく好きな人も多いと思います.一方,ハイコントラストでシャープな写真を好む人には,つまらなくて、物足りないような感じがするかもしれません.その場合は,ネオパンアクロス(フジフィルム)のような硬調のフィルムを使ったり,印画紙へプリントする段階で硬調に仕上げたり,あるいは,パソコンに取り込んでシャープネスを少し上げたりすれば良いでしょう.この辺の処理をどうするかは,人によって好みの分かれる所です.