モノクロフィルムの現像は、2つの大きな作業に分けることができます。それは、「フィルムをタンクにセットする作業」と「タンクに薬品を入れて現像する作業」です。どちらの作業も、うまくできるようになるためにはある程度の熟練を必要とします。しかし、慣れてくると、どちらも、心地よい緊張を伴う、わくわくするような休日の楽しみになるでしょう。ここでは、これら2つの作業について、初心者向けに紹介します。
まず、フィルムを現像タンクにセットする作業について説明します。この作業は、ダークバックというバックの中で行います。このバックは外からの光を遮断するためのバックですから、当然のことながら、中の作業を見ることができません。言い換えると、目をつぶった状態で,一連の作業を行うことになります。ですから、以下の作業を目をつぶった状態でできるように練習してから、実際の作業に取りかかる必要があります。
最初は、練習用の何も写っていないフィルムを1本用意します。あくまで練習用ですから、期限切れのフィルムを使うとよいでしょう。このフィルムをリールに移すという作業を、明るい場所で何度も練習して,体得します。自分の手の動きを目で見ながら、フィルムをリールに移す練習を何回も行うのです。この作業を以下に箇条書きにしてみます。
1.フィルムパトローネを栓抜きなどであけて、中のフィルムを取り出す。
2.取り出したフィルムの先端を、フィルムの巻き取り方向と直角に、まっすぐに安全なはさみで切る。
3.フィルムの先端をリールの真ん中のバネの部分に挟む。
4.フィルムを利き手の親指と人差し指で僅かにたわませながら、2つの渦巻き状の溝にフィルムをセットする。リールにフィルムが少しずつセットされるのにあわせて、反対の手でリールを少しずつまわす。
5.利き手で少しずつセットするときに、うまく溝に挟まらないときには、フィルムのセットに抵抗を感じるので、そのときは少しフィルムも戻す。利き手でスコスコと押したり引いたりしながセットする感覚を身につけること。
6.フィルムを最後までセットしたら、リールを現像タンクに入れてふたをする。
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これらの作業を写真で説明すると,以下のようになります。
フィルムがうまくセットされると、リールを横から見たときに、フィルムが溝にはさまった状態で渦巻き上にセットされているのが、見えるはずです。最初は、ダークバックを使わずに、1から6までの作業を明るいところで何度も練習します。これらの作業を完全に体得したら、今度は、目をつぶった状態で同じことを完全にできるようになるまるで、繰り返し練習します。完全に体得するには、何回も練習する必要があります。
ちなみに,明るい場所で,フィルムピッカーでフィルムの先端を少し引き出し,先端をあらかじめ直角に切っておけば,ダークバッグの中で苦労して2の作業を行う必要はなくなります。また,ワンタッチパトローネを使うと,パトローネは手で開けられ,しかも,フィルムの反対側はすでに垂直にカットされています。そのため,ダークバッグの中で行う栓抜きやはさみを使った作業が省略できます。
これらの作業を完全に体得したら、本番です。まず、失敗してもかまわない試し撮りのフィルムを用意します。初回は失敗する確率が高いので、失っても良い撮影内容のフィルムにしましょう。さあ、緊張の一瞬です。必要なもの(フィルム・リール・現像タンク・現像タンクの蓋,必要に応じて,栓抜き・安全なはさみ)をダークバックに入れて、1から6の作業を行ってみましょう。うまくセットしたら,リールを現像タンクに入れて,しっかりと蓋をすることも忘れては行けません。
うまく行けば、次は現像に進みます。しかし、最初はどこかで失敗することも多いと思います。たとえば、ダークバックの中でうまくフィルムをリールにセットできなかったり(自分も10分以上も格闘してフィルムを傷つけてしまったことがあります)、現像タンクにふたをしたつもりがしっかりしまっていなかったり(ふたを忘れて明るいところに出したらおしまいですね)、などです。失敗したら、最初の練習から、またやりなおしましょう。
フィルムをリールにセットして現像タンクに入れてふたをしたら、次は、フィルムの現像です。これ以降の作業は、上下水道のある、明るい場所で行います。
まず、前日までに準備しておいた薬品を上下水道のある場所に用意します。薬品は、現像液、停止液、定着液、水滴防止液の4つです。これらを間違えると全て失敗に終わってしまいますから、間違えないように、ペットボトルに色違いのマジックでしっかりと薬品の名前を書いておきます。これら4つのペットボトルを並べたら、作業開始です。
まず、現像液の温度をはかります。春や秋なら20度前後のことが多いので、そのまま次に進みます。一方、夏や冬は30度以上だったり、10度以下だったりすることがあります。その場合は使わなくなった深皿などに氷水やお湯を張っておき、ペットボトルをそこにつけて、18度から24度くらいに調節します。
温度調節ができたら、次は現像です。まず、薬品の説明書やメーカーのサイトを見て、現像時間を決めます。現像時間は、温度とフィルムの種類によって異なります。たとえば、D-76の場合、液温が20度でコダックのT-Max100を現像する場合には9分と指定されています。よく使う現像液の説明書を壁に貼っておくと便利です。
現像時間が決まったら、現像作業の開始です。現像は以下の作業から成り立っています。
1.現像液をタンクに入れてふたをして、タンクを固い所でとんとんとたたく(泡とりのため)。つぎに、適切にかくはんしながら、決められた時間だけ、現像する。
2.現像液を小さなペットボトルに出す(現像液を再利用するため)。
3.すぐに停止液を入れてふたをして、30秒間連続して、かくはんする。
4.停止液を捨てる(再利用はしない)。
5.定着液を入れてふたをして、決められた時間(10分程度)、現像と同様にかくはんしながら、定着する。
6.定着液を小さなペットボトルに出す(定着液を再利用するため)。
7.現像タンクをあけて流水で5分間程度水洗する。
8.水滴防止剤に30秒ほどつける。
9.リールからフィルムを外して、まっすぐにのばして、スポンジで水滴をとってから、乾かす。
10.切断してフィルムシートにしまう。
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これらの作業を写真で説明すると,以下のようになります。
・まず,上下水道のある場所に,4つの薬品を並べる.
・次に,現像液と定着液を再利用するための小さなペットボトルを2つ用意する.
・さらに,液温を管理するときにお湯や氷水をはるための皿も容易しおく.
・これらができたら以下の作業を開始します。
以上で,写真による解説を終わります。
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ここで、一番難しいのは、1-2や5-6のかくはんと静止の作業です。たとえば、9分間の現像時間の場合、最初の1分間は連続かくはんを行い、その後、10秒間のかくはんと、50秒間の静止を8回繰り返します。5秒間のかくはんと25秒間の静止を16回繰り返す方法もあります。かくはんとは、10秒間に数回ほど、現像タンクを上下にひっくりかえす作業のことです。このとき、中の液体の動きを確認しながら、液体が全体に行き渡るようにかくはんします。また、現像中に液温が大きく変わってしまわないように、室温が液温と近くなるような部屋で行います。この辺りの調節を体得することも、この作業の面白みのひとつです。経験からいって、温度設定と現像時間さえ守れば、ほぼ失敗はないでしょう。定着の場合も同様にかくはんと静止を繰り返します。
2と6の薬剤の再利用については、何回再利用したかを記憶しておくために、小さなペットボトルに使用回数を油性のサインペンでメモしておくとよいでしょう。また、5の水洗は、水がもったいないなら、現像と同様に、水を入れてかくはんしてから捨てるという作業を数回くりかえしてもかまいません。
9の乾燥は、フィルムの下端に重しとなるようなクリップをつけて、自然に乾燥させましょう。温風などを使うとフィルムが変形していまいますのでやめましょう。
出来上がったフィルムはイメージスキャナかフィルムスキャナですぐにパソコンに取り込んで、仕上がりを確認します。現像ムラがあるときは、次回から1の作業をさらにていねいに行うようにします。また、出来上がった写真があまりに暗い写真が出来たときは、現像時間が足りないので、次回から現像時間を少し長くしてみます。逆に、あまりに明るい写真が出来たときは、現像時間を少し減らします。これを繰り返すことで、自分なりの現像時間を身につけましょう。
慣れてくると、現像液の種類やフィルムの種類に応じて、現像時間を微妙に変えることで、自分なりの仕上がりをコントロールすることができるようになります。また、撮影条件を覚えておいて、現像のときにそれを反映させることもできます。たとえば、露出が少し足りない条件で撮影したなら、現像時間を長めにしてそれを取り戻すこともできます。さらに、わざと暗い写真にしたり、白トビを作品作りに取り入れたり、ざらついた写真を楽しんだりすることもできます。