露出を理解する



(はじめに)


 写真を撮ることは,フィルムを光に露出させることです.ですから,露光したフィルムを適切に現像するためには,露出のしくみをよく知っている必要があります.逆に,露出の知識があれば,カメラが本来持っている性能を十分に引き出すことにより,驚くほど良い結果を得ることができます.これは,一眼レフやデジカメの場合も同じです.
 ここでは,露出のしくみを,初心者向けに解説します.実は,露出についての細かな数字などは,自分でもすぐに忘れてしまいます.そこで,自分のためのメモ代わりに,細かい計算結果までここに書き留めておくことにします.実際,外出先から携帯でこのページにアクセスして,持参したカメラの設定を確認することも多々あります.また,計算間違いなどがあれば,その都度修正しようと思っています.



(露出値を理解する)


 露出のしくみを理解するためには,シャッター速度,絞り値,フィルム感度という3つの要素をしっかりと理解する必要があります.そこで,先ずは,これら3つについて,詳しく解説します.

1. シャッター速度

 シャッター速度とは,シャッターを開けて,フィルムに光を当てる時間の長さのことです.たとえば,1秒間シャッターを開けているときはシャッター速度が1,1/2秒間開けているときは1/2,1/8秒間空けているときは1/8というように表します.被写体が暗いときは,シャッターを長い間開けて,フィルムに光を沢山当てなければなりません.一方,被写体が明るいときには,シャッターを短い時間だけ開けて,フィルムに光をほんの少しだけ当ててやればよいのです.通常は,被写体が明るくにつれて,シャッターが開いている時間を,1,1/2,1/4,1/8,1/16,1/32,1/64,1/128,1/256,1/512,1/1024,1/2028というように,半分,そのまた半分,そのまた半分というように,順次減らしていきます.
 一方,フィルムに光をどれくらい当てたかを表す数値として,露出値(EV)という数字があります.一般に,「シャッター速度が1秒のときにフィルムに当たる光の量」を基準として考えます.そして,「光の量が半分になるごとに露出値が1増える」とされています.ですから,シャッター速度が1のとき露出値は0,1/2のときは1,1/4のときは2,1/8のときは3,というように,露出時間を半分にするごとに露出値は1ずつ大きくなります.つまり,フィルムに当たる光の量を制限するほど,露出値は大きくなります.
 シャッター速度と露出値の関係を表で示します.

シ ャ ッ
タ ー 速 度
11 / 21 / 41 / 81 / 1 61 / 3 21 / 6 41 / 1 2 81 / 2 5 61 / 5 1 21 / 1 0 2 4
露 出 値01234567891 0


 マニュアルで撮影するときは,この表に基づいて,自分が設定した露出値をしっかりと意識する必要があります.たとえば,シャッター速度が1/128秒に設定されているときは,「シャッター速度の露出値が7である」ことを必ず確認しておきます.

2. 絞り値

 絞りとは,小さな穴の開いた円盤(絞り板)をレンズの後ろに挟むことによって,レンズを通過する光の量を増やしたり減らしたりするしくみのことです.絞り板の穴が大きければたくさんの光が通過し,穴が小さければ少しの光しか通過しません.そのため,絞り板の穴の直径をかえることで,シャッタースピードの時と同じように,フィルムにあたる光の量を変えることができます.
 たとえば,被写体が明るすぎるときは,穴の直径を小さくすれば,フィルムに届く光の量を少なくすることができます.反対に,被写体が暗いときには,穴の直径を大きくすれば,フィルムに届く光の量を増やすことができます(これにより,写真の写り方も大きく変わりますが,これについては後日別のページで紹介します).
 それでは,絞り板の穴の大きさは,どうやって表されるのでしょうか.一般に,絞り板の穴の大きさは,絞り穴の大きさとレンズの焦点距離の比(絞り穴の大きさ:レンズの焦点距離)という比の形で表します.例えば,焦点距離が100mmのレンズで,絞り板の穴の直径が50mmなら,1 : 2 (50 : 100)です.同じレンズで,絞り板の穴の直径が25mmなら,絞り値は1 : 4 (25 : 100),絞り板の穴の直径が12.5mmなら,絞り値は1 : 8 (12.5 : 100)です.
 この比の値の大きい方を,絞り値,または,F値と言います.たとえば,1 : 2ならF2,1 : 4ならF4となります.つまり,絞り値は,絞り穴の大きさを,焦点距離との比で表したもので,F値が大きいほど穴が小さいことを表します.たとえば,F10なら,焦点距離の1/10の大きさの穴,F20なら焦点距離の1/20の大きさの穴が開いているのです.分かり易いですね.
 以下に,例として,焦点距離が40mmのレンズ(Smena 8M)を正面から見たときの様子を写真で示します.絞り値をF4, F5.5, F8, F11, F16と絞り込んでゆくと,それぞれのF値で,

 F4のときは40mm /4 = 10mm
 F5.6のときは40mm /5.6 = 7.1mm
 F8のときは40mm /8 = 5mm
 F11のときは40mm /11 = 3.6mm
 F16のときは40mm /16 = 2.5mm

の大きさの絞りが開いているのが,見えると思います.

F4
F4のときの絞り板の様子 (直径10mm)

F5.6
F5.6のときの絞り板の様子 (直径7.1mm)

F8
F8のときの絞り板の様子 (直径5mm)

F11
F11のときの絞り板の様子 (直径3.6mm)

F16
F16のときの絞り板の様子 (直径2.5mm)

 さて,F値とフィルムに当たる光の量(露出値)の関係は少し複雑です.先にも述べたように,フィルムに届く光の量を半分になると,露出値が1増えます.
 一方,F値は,絞り穴の直径を表した数字です.一般に,円の面積は,小学校のときに習ったように,半径×半径×3.1416により計算されます.ですから,直径(または半径)を半分にすると,面積は1/4になります.さらに半分にすると面積は1/8になってしまいます.
 F値と露出値の関係を細かく確認するために,露出値を1段ずつ増やすためのF値を,ひとつひとつ丁寧に計算してみましょう.計算があまり好きでない方は,以下の表を飛ばして読んでもかまいません.

 露出値を1増やす  F1(焦点距離と絞り穴の直径が1:1)の絞り穴を基準としたときに,絞り穴の面積を1/2にするためには,F値を1.4142にしなければなりません.なぜなら,F1.4142のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「基準となるF1のときの絞り穴の直径」の比が1:1.4142のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,1.4142 × 1.4142 × 3.1416 = 6.2832の比,つまり,1:2になるからです.ちなみに、この値は2の1乗 (=2)の平方根に相当します.
 露出値を2増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/4にするにするためには,F値を2にすればよいことになります.なぜなら,F2のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:2のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,2 × 2 × 3.1416 = 12.5664の比,つまり,1:4になるからです.ちなみに、この値は2の2乗(=4)の平方根に相当します.
 露出値を3増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/8にするためには,F値を2.8284にすればよいことになります.なぜなら,F2.8284のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:2.8284のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,2.8284 × 2.8284 × 3.1416 = 25.1328の比,つまり,1:8になるからです.ちなみに、この値は2の3乗(=8)の平方根に相当します.
 露出値を4増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/16にするためには,F値を4にすればよいことになります.なぜなら,F4のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:4のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,4 × 4 × 3.1416 = 25.1328の比,つまり,1:16になるからです.ちなみに、この値は2の4乗(=16)の平方根に相当します.
 露出値を5増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/32にするためには,F値を5.6569にすればよいことになります.なぜなら,F5.6569のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:5.6569のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,5.6569 × 5.6569 × 3.1416 = 100.5312の比,つまり,1:32になるからです.ちなみに、この値は2の5乗(=32)の平方根に相当します.
 露出値を6増やす 絞り穴の面積をF1のときの面積の1/64にするためには,F値を8にすればよいことになります.なぜなら,F8のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F8のときの絞り穴の直径」の比が1:8のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,8 × 8 × 3.1416 = 201.0624の比,つまり,1:64になるからです.ちなみに、この値は2の6乗(=64)の平方根に相当します.
 露出値を7増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/128にするためには,F値を11.3137にすればよいことになります.なぜなら,F 11.3137のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1: 11.3137のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,11.3137 × 11.3137 ×3.1416=402.1248の比,つまり,1:128になるからです.ちなみに、この値は2の7乗(=128)の平方根に相当します.
 露出値を8増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/256にするためには,F値を16にすればよいことになります.なぜなら,F16のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:16のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,16 × 16 × 3.1416 = 804.2496の比,つまり,1:256になるからです.ちなみに、この値は2の8乗(=256)の平方根に相当します.
 露出値を9増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/512にするためには,F値を22.6274にすればよいことになります.なぜなら,F 22.6274のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:22.6274のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,22.6274 × 22.6274 × 3.1416 = 1608.499の比,つまり,1:512になるからです.ちなみに、この値は2の9乗(=512)の平方根に相当します.
 露出値を10増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/1024にするためには,F値を32にすればよいことになります.なぜなら,F32のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:32のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,32 × 32 × 3.1416 = 3216.998の比,つまり,1:1024になるからです.ちなみに、この値は2の10乗(=1024)の平方根に相当します.
 露出値を11増やす  絞り穴の面積をF1のときの面積の1/2048にするためには,F値を45.2548にすればよいことになります.なぜなら,F45.2528のとき(つまり,「現在の絞り穴の直径」と「F1のときの絞り穴の直径」の比が1:45.2528のとき),面積の比は,1 × 1 × 3.1416 = 3.1416と,45.2528 × 45.2528 × 3.1416 = 6437.1384の比,つまり,1:2048になるからです.ちなみに、この値は2の11乗(=2048)の平方根に相当します.

 これらの数字を表にまとめると,絞り値(F値)と露出値の関係は以下のようになります.細かな数字は適当に切り捨てて表示します.

絞 り 値11 . 422 . 845 . 681 1 . 31 62 2 . 6
露 出 値0123456789


 シャッタースピードの時と違って、ちょっと変わった数字が並んでいます.交換レンズの鏡胴に刻印してある数字列ですね.不思議なことに,不規則でなじめなかった数字も,ひとつひとつ計算すると,なんだか愛おしく(?)感じてきました.これらの数字を、暗記するのは大変かもしれません.でも、マニュアルで撮影するときは,この表を参照して、絞りの露出値を毎回意識する必要があります.たとえば,撮影時の絞り値(F値)がF16に設定されているときは,「絞りの露出値が8である」ことをしっかりと頭に入れておかなければなりません.

3. 露出値


 これまでに紹介した「シャッター速度の露出値」と「絞り値の露出値」を足したものが,「撮影時の露出値」です.ですから,露出値とは,シャッター速度と絞り値によって,フィルムに当たる光をどれだけ制限したかを表した数字であるとも言えます.たとえば,シャッタースピードが1/128で,F値が16なら,撮影時の露出値は15になります.これは,被写体がとても明るいので,フィルムに当たる光を15段階まで制限したことを意味しています.また,シャッタースピードが1/32で,F値が1.4なら,撮影時の露出値は6になります.この場合は,被写体がかなり暗いので,フィルムに当たる光の制限を6段階までにおさえたと言えます.
 撮影者が高性能のカメラやF値の大きい大口径のレンズを必要とする理由のひとつは,それらの機材が極端な露出値で撮影することを可能にしてくれるからです(これに加えて,被写界深度などを大きく操作できるというメリットも理由のひとつでしょう).たとえば,薄暗いレストランなどで被写体の微妙な表情を撮影したい場合には,フラッシュを使うことはできません.しかし,1/16でも手ぶれしないような静かなシャッターを備えたカメラと,F値の最大値がF1.4のような大口径のレンズを使えば,露出値が5程度でも,フラッシュなし,かつ,手持ちで撮影することが出来ます.自分も,Rikenon 55mmF1.2という低価格で高性能の大口径レンズにハマっていたことがありました.
 一方,日中にスナップを撮るなら,レンズ付きフィルムやコンパクトカメラのようなシャッター速度や絞りに大きな制限があるカメラでも,フィルムの性能を十分に引き出すことができます.ただし,レンズ付きフィルムなら,露出値がどのようになっているかをあらかじめ計算しておき,カメラの露出値を被写体の明るさにぴったりと合わせる必要があります.また,コンパクトカメラのオートプログラムを使って撮るときには,自分のコンパクトカメラがどのようなオートプログラムを持っているか,つまり,「各撮影条件で,どのようなシャッター速度と絞り値をとるように設計されているか」をあらかじめ確認しておかなければなりません.
 

4. フィルム感度

 フィルム感度は、フィルムのパッケージにISO100、ISO200、ISO400などのように記載されています。この数字は、光に対する感度をあらわしています。数字が大きいほど、感光物質が「ガッツりモッテる(厚く塗ってある)」ことを意味しています。
 数字が小さいフィルムは、感光物質は薄く塗ってあるので、光がたくさんある,明るい所で使います。このタイプを,低感度フィルムと言います。逆に、数字が大きいフィルムは、感光物質が厚く塗ってあるので、光が少ない,薄暗い所で使います。このタイプのフィルムを,高感度フィルムといいます。
 一般に、高感度フィルムは、解像度が低く、ぼやけた写りになります.これは、高感度フィルムでは,フィルム面の大きな面積を使って、光を記録するからです.一方、低感度フィルムは、解像度が高い、くっきりとした描写になります.これは、低感度では、フィルム面の小さな面積を使って、光を記録するからです.
 これはデジカメの場合も同じです.デジカメの場合も,感光素子の感度をISO100,ISO400などと表します.たとえば,ISO1600のような高感度の場合は,隣接するいくつかの感光素子をまとめてひとつの感光素子として使います.そのため,解像度は低下し,ざらついた画像になってしまうのです.これを逆手にとり,素子の感度設定をマニュアルで少しずつ上げながら,ざらついた作品作りにチャレンジすることもできます.
 先に紹介したように,シャッタースピードの露出値と絞り値の露出値を足したものが,撮影時の露出値とされます.露出値とは,シャッタースピードの絞り値によって,フィルムに当たる光をどれだけ制限したかを示す数値です.しかし,この露出値は,あくまで,フィルム感度がISO100の時のものです.もし.カメラに入れたフィルムの感度がこれよりも大きい(つまり,ISOの値が大きい)ときは,フィルムに当たる光量の制限は,もっと厳しくしなければなりません.逆に,カメラに入れたフィルムの感度がこれよりも小さい(つまり,ISOの値が小さい)ときは,フィルムに当たる光量の制限は,もっと緩くする必要があります.
 露出値とフィルム感度の関係を整理すると,以下のようになります.まず,ISO100のフィルムを基準として考え,このときはシャッタースピードと絞り値で決まる露出値を,撮影時の露出値とします.しかし,フィルム感度がISO100よりも大きいときは,フィルム感度が2倍になる毎に,露出値を1だけ減らします.たとえば,ISO200なら1,ISO400なら2,ISO800なら3を引きます.逆に,フィルム感度がISO100よりも小さいときは,フィルム感度が1/2倍になる毎に,露出値を1だけ増やします.たとえば,ISO50なら1,ISO25なら2を加えるのです.フィルム感度(ISO)を変えたときに,露出値に加える値を表で示します.

フ ィ ル ム感 度 1 2 . 52 55 01 0 02 0 04 0 08 0 01 6 0 03 2 0 0
露 出 値3210-1-2-3-4-5


 ISO12.5やISO25600のようなフィルムは,理論上は存在しますが,実際には市販されていません.しかし,以下に紹介するように,減感現像や増感現像により,それに近い状態を作ることはできます.ただし,画像は劣化します.いずれにせよ,シャッタースピードや絞り値と同じように,マニュアルで撮影するときは,フィルム感度の露出値もまた頭に入れておかなければなりません.

5. 適正な露出値を計算する


 被写体からカメラに飛び込んでくる光の明るさは,ライトバリュー(LV)という数字で表します.ライトバリューは,快晴の海岸線や雪原などでは大きくなり,薄暗い室内や夜の街角などでは小さくなります.ライトバリューは,マニュアルカメラが主流だった時代のフィルムの説明書にはしっかりと書かれていました.うろ覚えではありますが,ライトバリューの典型的な数字を以下に示します.

被写体 ライトバリュー
真夏の海岸・雪原 16
快晴 15
晴れ 14
明るい曇り 13
曇り 12
暗い曇り 11
ナイター 10
明るい舞台 9
夕暮れ 8
明るい室内 7
暗い室内 6
夜景 5


 マニュアル撮影では,被写体のライトバリューとカメラの露出値がぴたりと一致したときに,もっとも良い結果を得ることができます.たとえば,快晴の場合には,ライトバリューが15です.ということは,たとえば,シャッタースピードの露出値を7 (1/128),絞りの露出値を8 (F16),フィルム感度による増減を0 (ISO100)とすれば,露出値の合計は7+8+0=15となり,もっとも良い写りになります.
 これらの値は,合計が合っていれば,それぞれの値を変えてもかまいません.ですから,シャッタースピードの露出値を9 (1/512),絞りの露出値を4 (F4),フィルムの露出値を2 (ISO25) としても,やはり露出値の合計は9+4+2=15となり,露出の面では,ほぼ同じ結果になります.
 慣れた撮影者は,撮影する瞬間に,これらの数値を計算をして結果を予測します.ですから,いつも撮影者の予測した写真が出来上がります.一方,これを行わないと,レンズ付きフィルムでも高級一眼レフでも,撮影者が知らないところで露出が決められてしまいます.そのため,期待通りに写っていれば良いのですが,場合によっては,撮影者に不満が募ることになります.
 これはデジカメの場合も同じです.被写体のライトバリューはどれくらいか,デジカメがどのような判断をするか,あるいは,マニュアルで露出をどのように設定するか等々を,瞬時に考えて撮影結果に反映させることが,自分なりの作品作りにつながるのです.

6. サニーシックスティーンとは?

 かといって,露出値の表を覚えるのは大変です.また,被写体は計算が終わるまで待っていてくれません.そこで,昔から,「サニー・シックスティーン」というルールが知られています.
 これもうろ覚えで申し訳ないのですが,たしか,次のような規則だったと思います.

「快晴(サニー)なら,1/(フィルム感度)でF16(シックスティーン)で撮る」

 つまり,快晴なら,絞りをF16に設定し,次に,フィルム感度が100なら1/124,200なら1/256,400なら1/512,というように,一番近いシャッター速度で撮ればよいのです.もし,F値を上げたらその分だけシャッター速度を落とせば良いし,シャッター速度を上げたらその分だけF値を下げれば良いでしょう.要するに快晴でのLVは15というわけです.また,曇りなら「サニー・シックスティーン」から4段下げればばよいし,室内ならさらに4段下げれば,まず失敗はしません,「16歳の頃は陽気」ではなかった自分も,これならなんとか覚えられそうです.




(現像で露出を補う)



1. 増感現像

 快晴の日に,ISO100のフィルムを詰めて,風景の撮影に出かけたとします.撮影者は,「快晴ならライトバリュー(LV)は15前後だからISO100でシャッタースピードは1/128,絞り値はF16の固定で何でも撮れるぞ!」と考えたのでしょう.
 ところが,思ったより雲が多い天気になってしまいました.ライトバリューはおそらく13前後です.シャッタースピードや絞りをかえることの出来るカメラなら,シャッタースピードを1段さげて1/64,絞りを1段下げてF11で撮影すれば,適切な露出を得ることができます.しかし,ぶれや被写界深度のことを考えると,シャッタースピードや絞りを変えたくないこともあります.まして,レンズ付きフィルムの場合は,シャッタースピードも絞りも変えることはできません.
 そんなときは,ISO100のフィルムをISO400とみなして撮影して,後で増感現像を行う,という方法があります.つまり,ISO400のフィルムがカメラに入っていると仮定して,シャッタースピードは1/128,絞り値はF16で,とりあえず撮影してしまうのです.そして,現像の段階で,現像時間を長くするか,現像温度を少し上げるという方法によって,露出値で2段分を補うのです.これを増感現像といいます.増感のための現像時間や温度は現像液の説明書等で調べます.
 増感現像は,実際にはフィルムの感度を上げている訳ではありません.ですから,写真の中で光がほとんど当たらなかった黒い部分は,いくら増感しても黒いままです.しかし,現像を強めるため,写真の中の灰色の部分は少し白くなり,白い部分はさらに白くなります.ですから,中間調の部分は救い出すことができますが,黒い部分は黒いままで,白い部分は白トビしてしまいます.その結果,コントラストが高くなり,キツい感じの写真になります.また,無理矢理現像を強めるため粒状性が悪化して,ざらついた仕上がりになります.
 なお,増感は,フィルム性能に限界があるため,1〜2段程度が限度です.従って,上記の表にあるISO25600などの感度は,あくまで理論値で,実際には実用的ではありません.
 ちなみに,増感に伴う問題のいくつかは,増感現像液を使うことで,ある程度回避することができます.増感現像液としては,フジのスーパープロドールなどが有名です.これらの現像液は,軟調で,かつ,現像力が強い,という特徴を持っています.そのため,増感しても,コントラストはあまり上がらず,粒状性もあまり悪化しません.
 また,ISO3200のような高感度フィルムの方が,粒状性などの面で,増感現像には適しているようです.高感度フィルムで撮った露出アンダーのフィルムから増感により無理矢理取り出した画像には,夢の中の映像のような,何ともいえない不思議な雰囲気があり,見るものを引きつけます.
 一方,増感の弱点をわざと拡大して,作品作りに積極的に利用することもできます.妙にコントラストの高い写真や粒状性が悪くざらついたモノクロ写真をどこかで見たことがあるかと思います.チャレンジすると必ずハマります.

2. 減感現像

 増感の例とは逆に,曇天の日にISO800のフィルムを詰めて出かけたら,途中から快晴になってしまった場合を考えてみましょう.このときは,どうしても露出オーバーになりがちです.このときは,フィルムをISO200であると仮定して撮影してしまい,現像のときに露出時間を短くしたり,温度を下げたりすることで,減感現像を行うこともできます.増感のための現像時間は現像液の説明書等で調べます.
 この場合も,実際にはフィルムの感度自体を下げている訳ではありません.ですから,写真の中で光があまり当たらなかった黒い部分は,いくら減感しても黒いままです.しかし,現像を弱めるため,写真の中の灰色の部分は少し黒くなり,白トビした部分は少し灰色になります.ですから,中間調の部分は少し暗くすることで救い出すことができますが,黒い部分は黒いままで,白い部分は灰色になります.その結果,コントラストが低くなり,フラットな感じの写真になってしまいます.
 このような減感の性質を利用して,フラットで落ち着いた仕上がりにしたり,現像を弱めることで粒状性を改善した解像度の高い写りにすることもできます.うっとりするほど美しい階調を持ったモノクロ写真の多くは,この技法で作られたものです.




(レンズ付きフィルムで露出を制御する方法)



1. 露出値を確認する

 レンズ付きフィルムの写りが悪い理由のひとつは,撮影者が露出を十分にコントロールしていないためです.露出を適切にコントロールするためには,まず,レンズ付きフィルムの露出値を知ることが大切です.以下に,いくつかのレンズ付きフィルムの露出値を示します.

レ ン ズ 付 き
フ ィ ル ム
シ ャ ッ タ ー
ス ピ ー ド
( 露 出 値 )
絞 り 値
( 露 出 値 )
フ ィ ル ム
( 露 出 値 )
露 出 値
W a i W a i
ワ イ ド
1 / 1 0 0
( 6 . 5 )
1 1
( 7 )
1 6 0 0
( - 4 )
9 . 5
超 M i n i 1 / 1 0 0
( 6 . 5 )
9 . 5
( 6 . 5 )
4 0 0
( - 2 )
1 0 . 5
ス ナ ッ プ キ ッ ズ
ビ ュ ー テ ィ ー
1 / 1 2 5
( 7 )
1 0
( 6 . 6 )
8 0 0
( - 3 )
1 0 . 6


 興味深いことに,これらの製品は,どれも,露出値が9から11の間に設定されています.つまり,レンズ付きフィルムの多くは,暗い曇り程度のライトバリューに合わせてあるということです.そのため,快晴では露出オーバーになり,薄くて白っぽい写真になってしまいます.一方,室内でフラッシュを忘れたりすると,今度は露出アンダーになり,真っ暗な写真になってしまうでしょう.
 このように,レンズ付きフィルムでは,露出オーバーか露出アンダーがつきものです.そこで,通常は,露光許容度(ラティチュード)ができるだけ大きい,高感度のカラーネガフィルムを入れて,かなりのオーバーやアンダーでも,画像を救い出せるようになっています.また,一端フラッシュをオンにすると,ずっとオフにできないタイプも多いようですが,これも,画像情報の少ない露出アンダーよりは,画像情報の多い露出オーバーで撮ってしまい,ラボでプリントするときに無理矢理補正する方が,比較的失敗が少ない,という工夫なのでしょう.
 また,フィルムを詰め替えるときは,撮影条件に応じて適切な感度のフィルムを入れると,良い結果が得られるでしょう.たとえば,WaiWaiワイドを晴天順光で使うなら,ISO100かISO50程度の低感度フィルムがベストです.

2. 露出を制御する

 描写力については何かと評判の良くないレンズ付きフィルムですが,露出を積極的にコントロールすると,とてもきれいな写真を撮ることができます.ここでは,モノクロフィルムを例として,レンズ付きフィルムの露出制御について考えてみましょう.
 モノクロフィルムは,リバーサルフィルムほどではないにしても,露光許容度がさほど大きくありません.解説書によっては,±1段程度と言われています(それでも,リバーサルフィルムの±1/3段程度よりはましですが).そのため,晴れの日(LV=15)にISO800を入れたスナップキッズビューティー(EV=9.5)を持ち出しても,フィルム性能を十分に引き出すことはできず,結局は不満が募ることになります.
 そこで,別ページで紹介しているように,絞りを改造してカメラの露出値を14程度に上げ,曇ったときの撮影には,フィルム感度と増感現像で対応することにします.ちなみに,絞り値を大きくすると被写界深度も改善されるので,一石二鳥です.
 絞り値を大きくした改造版の露出値を以下に示します.

レ ン ズ 付 き
フ ィ ル ム
シ ャ ッ タ ー
ス ピ ー ド
( 露 出 値 )
絞 り 値
( 露 出 値 )
フ ィ ル ム
( 露 出 値 )
露 出 値
超 M i n i( 絞 り 改 造 版 ) 1 / 1 0 0
( 6 . 5 )
2 7
( 9 . 5 )
4 0 0
( - 2 )
1 4
ス ナ ッ プ キ ッ ズ
ビ ュ ー テ ィ ー
( 改 造 版 )
1 / 1 2 5
( 7 )
2 7
( 9 . 5 )
4 0 0
( - 2 )
1 4 . 5


 どちらも露出値は14程度になり,快晴から曇りあたりまでをカバーできます.晴れた海岸や雪原では,ISO100を入れると,より良いでしょう.あとは,ISO1600程度の高感度フィルムを入れたものを予備として持っていれば,夕暮れまでは適応できます.これに加えて,撮影時の大体のライトバリュユーを覚えておいて,現像時に増感か減感を行えば,さらによい結果を得ることができます.また,室内撮影では,絞りを改造しないオリジナルバージョンを使います.
 このように,レンズ付きフィルムでさえ,撮影時には,明度判断,機材の性能確認,露出値計算,現像補正計画など,非常に多くの作業を瞬時に行うことが要求されます.撮影とは,とてもスリリングな行為ですね.

 


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