1996年3月にミノルタから発売されたコンパクトカメラです。このカメラの特徴は99 x 59 x 29.5mmという名刺大の極小サイズと、ミノルタG-ROKKORレンズ28mmF3.5という超高性能レンズの搭載にあると言えるでしょう。
このカメラに出会ったのは、1996年ごろにできるだけ小さいマニュアルカメラを捜していたときでした。
ほとんどのコンパクトカメラは幅広いユーザーを対象としていることもあり、フルオード機能により誰でもきれいな写真が撮れます。しかし、自分の場合は、フルオートで撮っているうちに、「カメラが決めた設定に従って、自分は構図をきめるだけ」という、いわゆる「撮らされ感」のようなものが気になり始めました。それは、出来上がった写真の中で、自分が決めたのは構図だけという不満感のような感覚でした。
それに比べると、レンズ付きフィルムの方が、焦点距離や絞りの違う本体の中で、今回はどれで撮るかを決めているだけ、まだマシかも、とさえ感じていました。
ということで、そのころは、絞り、シャッタースピード、ピント、露出補正、測光等の全てを自分で決めることのできるコンパクトカメラを熱心に捜していたのです。そのときに、このカメラと出会ったのです。
このカメラの高機能ぶりには、驚くばかりです。たとえば、AF機構は、通常は遠景に強いパッシブ方式(しかも445ステップ!)を採用し、微光時にはAF補助光自動照射によるAFになります。また、マニュアルに切り換えると、22ステップのフォーカス設定が可能です。
さらに、AE機構も、中央重点測光とスポット測光を選択できます。これらは、画面内の各部分の露出を微調整しながら明暗の程度にこだわった作品作りをする場合に、とても便利な機能です。
たとえば、スポット測光は、画面内の各部分の明るさを測ることができる機能です。一般に、フィルム写真では、全体平均を0とした場合に、上下に±3程度の明るさを記録できる性能を持っています。ですから、スポット測光を使って画面内の各部分(照明の部分、背景の部分、陰の部分など)の露出値を測り、それらがフィルム性能の範囲内(たとえば、照明が+3、背景が0、陰が-2など)に収まる露出を探り、そこで露出をロックすれば、画像をフィルム性能の範囲内におさめることができるのです。
加えて、コンパクトカメラでは珍しく、視度調節機能が搭載されています。また、ファインダーは高級一眼レフ並みにきれいで、見ているだけで楽しくなります。さらに、ファインダー内には、合焦距離とシャッタースピードが表示されます。ですから、撮影者は、撮影する瞬間に、絞り、シャッタースピード、露出値、フィルム感度などに基づいて、作品の出来上がりを判断するという、写真の醍醐味を十分に味わうことができます。
これらの多機能に加えて、レンズ横のレバー操作により、美しい背景ボケを映し出す真円状の絞り板が絞り値ごとにレンズの後ろにセットされる、という凝りに凝ったメカがカメラマニアの心をくすぐります。このカメラは、マニュアルカメラ愛好家にとって、「一生もの」のカメラであるといっても過言ではありません。
このカメラの唯一の問題は、重さが185gもあることです。といっても、カタログによれば、このカメラが35mmカメラとしては世界最小(体積比)だそうです。それでもこれくらいの重さだと、ワイシャツのポケットはちょっと無理です。しかし、これだけの描写力を持ったレンズをフルマニュアルで楽しむためには、数百グラム以上のレンジファインダーか一眼レフを持って歩かなければなりません。そう考えると、このカメラは、まさに小型・軽量・高性能のカメラの最高峰と言えるかもしれません。
重量 | 185g |
大きさ | 99mmx59mmx29.5mm |
レンズ |
G-ロッコール28mm 1:3.5 5群5枚 |
絞り | 真円絞り(F3.5, F5.6, F8, F16) |
ピント方式 |
アクティブオートフォーカス方式/外光パッシブ方式 455ステップ |
露出制御 |
中央重点測光/スポット測光選択 |
シャッター |
形式:プログラムAE式電子 |
ファインダー |
実像式ファインダー |
ストロボ | 内蔵固定方式 ガイドナンバー7 撮影可能距離範囲 0.45-2.0m(ISO100) 発行停止、強制発行、夜景ポートレート、赤目軽減機能選択 |
電池 | 3Vリチウム電池(CR123A)1個 |
フィルム送り | オートローディング |
メーカー | ミノルタ |
発売日 | 1996年3月 |
発売価格 | 148,000円 |
このカメラの持ち味は、鮮やかな発色と、切れ味の鋭いコントラストにあります。
カラーの場合、何をとっても、色味が濃く、コントラストの高い、グラビアのような写真になってしまいます。たとえば、急に気温が下がる北国の紅葉は、たくさんの木々が同時に着色するので、 ただでさえ色鮮やかです。これをTC-1で撮ると,さらにびっくり、雑誌のような写真の一丁あがりです。
また、モノクロで撮った写真は、コントラストがとても高く、何気ないスナッップが、「社会派の問題提起!」みたいになってしまいます。ただの街角が、怒れる報道写真、のように見えてくるのです。低コントラストで絵画的な描写のWaiWaiワイドととは、まさに正反対の表現力です。作品作りには、どちらも捨てがたいツールです。
ミノルタ TC-1 作品ギャラリー1 2008.11.30
ミノルタ TC-1 作品ギャラリー2 2008.12.15